この施設では昨年、職員が女性入所者に対して性的暴言を吐いたことが発覚。その後東京都などによる立ち入り検査にまで発展したことはまだ記憶に新しい。
その問題の後に起きた死亡事故なだけに、報道各社もこぞって事故を取り上げた。昨年末の事件を絡めて紹介するところもあった。
さくら苑は、昨年の性的暴言事件を反省し、様々な対策を打ち出していたにも関わらず、実態は自ら打ち出した施設方針(要介護者の移動には介護者2名が必要)を自ら無視してしまった。その挙句の事故だ。
どうしてこのようになってしまったのか。
過去の教訓は生かされていなかったのか。
それを探るために、改めて、性的暴言(虐待)事件を追ってみたい。
1.さくら苑で起きた「性的暴言」事件
まずは最初にさくら苑で起きた性的暴言問題を振り返ってみたい。
女性入居者に性的暴言 東大和の特養ホーム(共同通信060806)
同苑によると、1月21日、2人の男性職員が女性の排せつを介助した際、男性職員(30)が性的な行為をしてほしいとの発言をしたという。
通信社の記事は多少控えめだが、それでも職員が入所者に「性的な行為」を求めるような発言をした、としている。8月7日には東京都が緊急的措置として同苑に立ち入り調査を行った。
このことについて、さくら苑は下記のように謝罪した。
90歳女性に30歳男性ヘルパーが性的暴言…東大和市老人ホーム(スポーツ報知060807)
東大和市の指摘を受け、施設を運営する社会福祉法人多摩大和園は4日、事実を確認。女性の家族に謝罪した上で、5日に緊急理事会を開いた。暴言を吐いた男性を自宅謹慎7日間、一緒に介助していた男性を同5日間、常務理事と苑長を減給10%(1か月)、主任ヘルパーを減給5%(1か月)などとする処分を決定。第三者を含む調査委員会で、さらに詳しく調査することを決めた。
さくら苑は、こうした処分で幕引きしたかったのかもしれない。しかし、女性入所者の家族は「処分は軽い」と反発。同時に、500件を超える苦情が同苑に殺到した。
それに対して、さくら苑は慌てて次のように処分を見直した。
性的暴言の特養ホーム、施設長を解任 処分を見直し(朝日新聞)
虐待発覚後の5日、同苑はいったん職員を出勤停止5日〜7日間、苑長を減給10%(1カ月)とする処分を公表していた。しかし家族は「処分が甘い」と強く反発、同苑に9日までに約560件の苦情電話があり、処分を事実上見直した。
苑長解任…「性的暴言」特養ホーム、処分見直し(読売新聞060810)
ここで「特養ホームを良くする市民の会」の要望書を見てもらいたい。
「さくら苑」虐待事件に関する改善への意見書
2.前玉川施設長は辞任ではなく辞職処分が当然です。市民からはライセンスの剥奪が当然という声が届いています。さらに、施設の関係者からは、前玉川施設長の就任後、多くの事故が発生しているという内容の電話がありました。(平成16年度に約半年間で8件の骨折があったとの通報があります。さらに平成17年 11月に損害賠償請求の裁判に至っている事故もあります)
3.足利常務理事の辞任は当然です。ご家族に謝罪した時や一部メディアの方に対し、この事件を「コミュニケーションのつもりだった」「若者のギャグ」などと運営者としての適格性が疑われる発言とともに、今回の事件に対して最初に運営責任者としてとるべき責任が果たされているとはいえません。
ここで指摘されている足利常務理事が新たな苑長となり、第三者による「人権侵害問題調査委員会」が施設運営などについて調査を開始。委員は弁護士や大学教授など5名によるもの。
この時点で、施設は再生するものと思った人も多いはず。
しかし期待は見事に裏切られた。
2.茶番だった第三者による「調査委員会」
第三者による客観的な意見に基づいた調査が行われていたものの、今度は次のような事態に発展した。
職員暴言 さくら苑長が辞任表明 最終報告書の公表拒否(産経新聞061209)
外部の調査改革推進部門が5日の声明で「調査委の最終報告書が提出されて1カ月以上経過するが、遺憾ながら公表がなされないままとなっている」と同苑を批判していることについては、被害者らのプライバシーなどを理由に公表を拒否。「新体制に委ねる」とした。
このことについて、調査委員会だけでなく、東大和市の市議会も猛反発し、次のような決議を採択した。ソース元はPDFなので長文ながら引用させていただく。
東大和市 市議会 社会福祉法人多摩大和園の信頼回復に向け、「さくら苑」の早期改革を求める決議2006年12月(PDFファイル)
2月5日付の「調査改革推進委員会」の報道機関及び行政機関に提出された声明文によると、「経営に当たる管理者は、この苑の状態を直視し、これまでの事なかれ主義に陥ることなく、抜本的な改革を直ちに進めるべきである」と勧告し、また、「小手先あるいは形式的な改善・改革に甘んじるのではなく、抜本的な改革の完遂に向け、最大の努力をしてゆくことを、個々に期待する」と述べられている。
当市議会としては、本年第3回定例会において緊急質問、及び特別養護老人ホーム「さくら苑」に関する陳情を採択しており、改善を求めているところである。なお、現苑長の辞任が伝えられたが、責任回避ととられてもいたし方ないところである。
調査委員会が提出した最終報告書をさくら苑が公表しなかった事実、東京都及び東大和市が補助金の交付を留保している事実、及び改善報告書を受け、東京都と東大和市が立ち入り調査をした事実を重く受けとめるとともに、社会福祉法人としての責任の重さを改めて認識し信頼回復に向け、早期に東京都の改善勧告に従った苑の改革を行うことを強く望むものである。
このような状態のなか、公表されなかった報告書とはどのようなものなのだろうか。
多摩大和園、経営陣退陣求めた外部委員を全員解任(産経新聞)
同苑を運営する社会福祉法人「多摩大和園」は11日、改革委員会の外部委員3人を解任した。改革委は同日、「根本原因は、経営者の管理能力、経営者と職員の信頼関係の欠如にある」として大和園の経営陣の退陣を求める意見書を提出予定だった。
定着しない成年後見制度(3/7)(日経ビジネスアイ・浅川澄一編集委員)
同園は報告書が正式にまとまる直前に外部委員を突然解任するなど、「自己保身を図る」(外部委員の声明より)不可解な動きが目立った。組織運営のトップである理事長が実質的に不在であるなど、理事会の対応や構成に社会福祉法人としてのあり方を問われる多くの課題を残した。
それは、相次ぐ不祥事を巡る企業の対応と比べるとはっきりする。同園は理事長を含めた6人の理事の内2人しか交代せず、病気療養のため長い間理事会に出席できない高齢の理事長が相変わらずトップに就いたままである。
いやはやなんとも。第三者による調査もすべて茶番だったわけだ。
気に食わない調査結果をもみ消すだなんて。そもそも第三者機関に調査させた意味がないではないか。
自分たちで調査委員会をコントロールできると思っていたのだろうか。そうした圧力をかけ続けたものの、それに屈しない外部委員を残らず首にしたのだろうか。
一見、苑長の首を挿げ替え、新体制でスタートしたかにも見えるが、その元苑長は本体の社会福祉法人「多摩大和園」の理事職はそのままだ。
いったい、何を反省し、世間に何を理解、信じてもらいたいのか。
このようなことを平然とやってのける社会福祉法人「多摩大和園」は今後も存在していくのだろうか。
今回の事故も、直接原因だけなく労働環境など背景要因などは明らかにされないまま、うやむやにされる可能性も十二分にある。
それを見過ごさぬよう、報道機関や専門家たちには頑張ってもらうしかない。
